「威勢はいいが、あいにくと君には俺を阻止できないね」

「なぜ!?」

「なぜなら――

   そう言ったのは美弥ちゃんだった。彼女はあたしの背後に立ってたんだけど、急にしゃがみこんで、

  あたしのお尻を下からさっと撫でた。

   ポン。シャンペンの栓が抜けるような音がして、お尻から何かが飛び出した。

  「え……?」

   そのとたん、あたしはめまいを覚えた。全身から力が失われ、手足が急にだるくなる。体重が何倍も重くなったような気がした。

  ビニール人形から空気が抜けるように、あたしは浅瀬にへなへなと尻餅をついた。

  「く……」

   立てない――まるで何千メートルも走った後のように、全身の筋肉が疲れきっていた。立ち上がるどころか、

  腕を突っ張って座っているだけで精いっぱいだ。腕の力をゆるめたら、顔が水中に突っ伏してしまい、溺れてしまう。

   美弥ちゃんがあたしの前に回りこんだ。苦しんでいるあたしを見下ろし、愉快そうに嘲笑を浮かべている。

  その手には、テニスボールよりやや小さいぐらいの、きれいなピンク色のぷよぷよした玉が握られていた。

  「なぜなら、用済みの貴女はここで死んじゃうからよ、おバカさん」

 

 

 

   尻子玉。

   人間の肛門の奥にある玉で、河童にそれを抜かれた者は衰弱し、ついには死んでしまうと言われている。

  もちろん、昔の人が想像した架空のもので、そんなものは現実に存在するはずがない――河童や蜘蛛女が存在するはずがないのと同じように。

   あたしはその存在しないはずのものを抜かれてしまったのだ。

  「よくやったぞ、弥々子! 流石は俺の妻だ」

  「ふふふ……たいしたこっちゃないわよ。絡新婦(じょろうぐも)と言えど、所詮はまだ16歳の小娘。

四〇〇年も生きてきたあたしにかかりゃ、ちょろいもんよ」

 そう言って、ジャンボわらび餅のようなあたしの尻子玉を片手でもてあそびながら、美弥ちゃんは魔神古寺の方に近づいていった。

歩きながらその姿が変化してゆく。ぐんぐん背が伸び、胸とお尻が大きくなり、顔が大人びてきて……ほんの数秒で、

三〇歳ぐらいの妖艶な美女に変化してしまった。魔神古寺の胸に色っぽくしなだれかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

   弥々子の落としたあたしの尻子玉を、ラウが探して拾い上げてくれた。それをお尻に当てると、すうっと体内に吸い込まれた。

  体調が嘘のように回復し、すっきりとなる。