(模擬戦が終わって、ティアナがヴァイスと一緒に歩いていると先程の少女がソファーに座って

 長めの鉄扇型の自分用のデバイスで、自分の顔を仰いで寛いでいた。白銀の髪で、鳩尾まである前髪を

額の中央よりやや左側から分けて垂らし、右側の前髪が若干目にかかるようにしている。

尻まである後髪は後頭部上方で纏めてポニーテールにしている。

少し吊り上げった目に、鮮血のように紅い瞳をしているのだが、その瞳には光がなく焦点もほとんどあっていない。

肌も髪や眉と同様に色素が薄く新雪のように白いのだが、顔の左頬から左眼を経由して左眉の辺りまでと

両手の甲に大きく左右の首筋に小さく火傷痕があり、それらの部分だけが薄茶色なケロイドになっている。

欠伸をした際に口から、常人よりも若干長めで鋭い牙が覗く。

顔の火傷を負っていない箇所から、火傷を負う前は、幼く背は低いがスレンダーな体躯で

雑誌のグラビア・モデルになれそうなほど整った容姿だったであろうことが容易に想像できる)

 

「ん?あの声は……」

 

(カフス部分が長めな長袖ワイシャツの上に、ダブルボタンな黒いベスト、

ワイシャツの襟には白いボヘミアンタイと更にその上に赤い蝶ネクタイ、灰色のタイトなスリムスラックス、黒革靴

 といったカジノのディーラーのようなデザインのバリアジャケットを着た其の少女は、ティアナとヴァイスの声と足音に

 気付くと、先程まで自分の顔を仰ぐのに使っていた長鉄扇型デバイスをもう片方の手にパシッと叩き付けるようにして閉じて

 ソファーから立ち上がり、ティアナ達に歩み寄り、表情を少し引き締めて、ゆっくりと敬礼しながら喋り出す)

 

「その声は、確か……ティアナ・ランスター二等陸士とヴァイス・グランセニック陸曹だったかな?

  ……先程の模擬戦では失礼したな。一種の挨拶代わりだと思ってくれるとありがたい。……改めて自己紹介するが

 ……俺が、今回の事件でアンタらと一緒に行動することになったナイトハルト・フォン・ルナウンシュヴァイク三等陸尉だ。

 年齢15歳。……ん?アンタらなら、別に自分らよりも年下な者が自分らよりも

 階級高だったとしても、そう驚くこともねえだろ?大体、アンタらがいた部隊の隊長達は魔導師デビューが

 10歳弱の頃だったそうだし、同じくアンタらがいた部隊にいたっていうエリオ・モンディアル三士と

 キャロ・ル・ルシエ三士は調度10歳だったと聞くし……俺も入局時期が似たようなクチだったって思ってくれりゃ良いさ。

 ……ああ、自己紹介がまだ途中だったな。えーと、性別は女。身長147センチ。

 スリーサイズは……う、上から775578。体重は秘密だ。魔導師ランクは陸戦AA-だ。

ああ、それと、俺は10年前に事故で視覚を失ってるため、話す時に、希にあらぬ方向を向いたまま

喋ってしまうことがあるかもしれねぇが、そこんとこは悪いが勘弁してほしい」

 

(男口調の乱暴そうな言葉遣いだが、似たような言葉遣いのヴィータやノーヴェでさえ一人称だけは辛うじて「アタシ」なのに

 彼女の場合は一人称まで「俺」である)

(ちなみに、ティアナ達が、先ほどの模擬戦で、幻影が効いていない様子だったことを尋ねてみると……)

 

「なに、幻影?……ああ、あの時に少し妙な感じがしたのはソレが原因だったのか…………ん……まぁ、それについてはだ、

 さっき言ったように、5歳の時の事故で俺の目は見えなくなっている。その後、残った四感、まぁ主に聴覚なんだが、それと

 気配を頼みにリハビリを重ねて、なんとか、目が見えなくなる前と、さほど変わらないような生活を送れるようになって

 管理局に入局した後は、インテリジェント・デバイスの補助のおかげもあって戦闘面でも特に難儀はしていないわけで……

 ま、要するに、生活面にせよ戦闘面にせよ、俺は音と臭いと気配と専用デバイスの補助を頼りに

 周囲の判断をしているわけなんだが……んまぁ『幻術使い』が『目暗者』を相手にしたのはマズかったんだろうな。

 ……それはそうと、これから暫くは一緒に行動することになるわけだが、どうぞ、よろしく頼む」

 

(「得意気な表情」に、なってしまわないように抑えている、とでもいったような微妙な表情をして

 左頬の火傷痕を長鉄扇型デバイスの骨部分で軽く弄りながら話す彼女。

 最後には表情をやや引き締めて、背筋を伸ばしながら、もう一度敬礼する)