天空の城ラピュタ-天空編- パズー :正義感と行動力に溢れる少年。 シータ :ゴンドアの谷に住む少女。 マ=ドーラ :空賊タイガーモス号の船長。50歳前後。 モウロ将軍 :ラピュタ探索の指揮を取る軍人。 ムスカ :政府から派遣された特務機関の指揮官。階級は大佐。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 配役表(♂:4 ♀:2 不問:1 被り:2)全300行(約45分) パズー♂: シータ♀: マ=ドーラ(ドーラ)♀: ムスカ♂: ルイ&兵士&黒眼鏡♂: モトロ&モウロ将軍♂: ナレ(N)♂♀: ----------------------------------------------------------------------------------------------- 001.ドーラ :降りな。 002.ナレ(N) :フラップターはタイガーモス号へと到着し、一機ずつ収納されて行った。 003.ドーラ :みんな、よぉーくお聞き。ゴリアテは既にラピュタへ出発した。本船はこれより追跡を開始する。 風を捕まえれば明日には接触できるはずだ。奴を最初に見つけた者に金貨10枚を出すよ! ラピュタがどんな島だろうが、全うな海賊を慰めてくれる財宝ぐらいあるはずだ! さぁ、みんな、しっかり稼ぎな!進路98、速力40! 004.ナレ(N) :タイガーモス号は風を受け、加速して進んで行った。辺りはすっかり暗くなっていた。 005.モトロ :ドーラも変わったねぇ…ゴリアテなんぞに手ぇ出すとはよ。勝ち目はねぇぜ? 006.ドーラ :ふん、ラピュタの宝じゃ無理もするさ。 007.モトロ :へっへ。確かにいい子だよ、あの二人はな。 008.ドーラ :何が言いたいのさ、この糞じじい。 009.モトロ :堅気に肩入れしてもよ、尊敬はしてくれねぇぜって。 010.ドーラ :なんだって! 011.ナレ(N) :朝方まで変化の無いままタイガーモス号は静かに大空を飛んでいた。 012.ルイ  :おい、起きろ。当直の時間だ。持ってけ、寒いぞ。 013.パズー :見張り? 014.ルイ  :ああ。うぅ…寒っ…。お前上だ。 015.パズー :うん。 016.ナレ(N) :パズーは上の見張り台へと登って行った。そこへシータが登ってくるのが見えた。 017.パズー :あっ…シータ! 018.シータ :怖かったぁ…。わぁ、綺麗! 019.パズー :シータは後ろを見張って。 020.シータ :うん。…パズー…わたし、怖くてたまらないの…。本当はラピュタなんかちっとも行きたくない。 ゴリアテなんか見つからなければいいって思ってる。… 021.パズー :あのロボットの事?かわいそうだったね。 022.シータ :おばあさんに教わったおまじないで、あんな事が起こるなんて…。 わたし、他にもたくさんおまじないを教わったわ。 物探しや、病気を治すのや…絶対使っちゃいけない言葉だってあるの。 023.パズー :使っちゃいけない言葉? 024.シータ :滅びのまじない。 いいまじないに力を与えるには悪い言葉も知らなきゃいけないって、でも決して使うなって。 教わった時、怖くて眠れなかった。あの石は外に出しちゃいけないものだったのよ。 だからいつも暖炉の裏に隠してあって、結婚式にしかつけなかったんだわ。 お母さんも、おばあさんも。おばあさんのおばあさんもみんなそうして来たんだもの。 あんな石早く捨ててしてまえばよかった! 025.パズー :違うよ。あの石のお陰で、僕はシータに会えたんだもの。石を捨てたってラピュタは無くならないよ。 飛行機械がどんどん進歩してるから、いつか誰かに見つかっちゃう。 まだ、どうしたらいいか分からないけど、 本当にラピュタが恐ろしい島ならムスカみたいな連中に渡しちゃいけないんだ。 それに…今逃げだしたらずっと追われる事になっちゃうもの。 026.シータ :でも、わたしの為にパズーを海賊にしたくない。 027.パズー :ふふ…僕は海賊にはならないよ。ドーラだって分かってくれるさ。見かけよりいい人だもの。 全部片付いたら、きっとゴンドアへ送って行ってあげる。 見たいんだ、シータの生まれた古い家や、谷や、ヤク達を。…!なんだ?あれ?船の下!ほら、あれ! 028.ナレ(N) :いつの間にか下の雲の下に飛行戦艦ゴリアテの姿があった。 029.パズー :ゴリアテだ!真下にいるぞ! 030.ドーラ :面舵逃げろー! 031.ナレ(N) :間一髪、タイガーモス号はゴリアテの砲撃を避け、雲の中へと避難した。 032.モウロ将軍 :ムスカ!なぜ追わん!逃がすと厄介だぞ! 033.ムスカ :雲の中では無駄骨です。手は打ちます。どうせ奴等は遠くへは逃げません。航海は極めて順調ですよ。 034.ドーラ :予想より進路が北だった…。パズー、時間が無い、よく聞きな。ゴリアテに振り切られたらおしまいだ。 お前は目がいい。見張り台だけ雲から出して追跡する。 035.パズー :どうすればいいの? 036.ドーラ :その見張り台は凧になる。中にハンドルがあるだろう。時計回しに回しな。 羽が開いたらワイヤーを張りな!操縦は体で覚えるんだ!シータ、そこにいるね?お前は戻っておいで。 037.シータ :なぜ? 038.ドーラ :なぜ?ってお前は女の子だよ! 039.シータ :あら、おばさまも女よ。それにわたし、山育ちで目はいいの。パズーもそうしろって! 040.ドーラ :はっはっはっはっは!上がったら電線管は使えないよ。中に電話があるからね… 041.シータ :(被って)電話ってこれね?おばさま。 042.ルイ  :すげぇ…。 043.パズー :はい、やってみます。あげてください。 044.ドーラ :行くよぉ! 045.パズー :シータ、僕のかばんから紐を出して。そいつで僕とシータを縛って。 046.ナレ(N) :雲の上に出たパズーとシータは突風にあおられながら、バランスを崩さないようにお互いをしばり、監視を続けた。 目の前に凄まじく大きな雲が現れ、そこに引き寄せられるようにタイガーモス号は進んでいた。 047.ドーラ :そいつは低気圧の中心だ、風に船を立てな、引きずり込まれるよ! 048.ルイ  :舵が動かねぇ! 049.ドーラ :いつものくそぢからはどうしたぃ! 050.モトロ :ドーラ!エンジンが燃えちゃうよ! 051.ドーラ :泣き言なんか聞きたくないね、なんとかしな。…竜の巣だぁ… 052.ルイ  :ママぁ…ダメだ、吸い込まれる! 053.ドーラ :男が簡単に諦めるんじゃないよ! 054.パズー :ブリッジ!ラピュタはこの中だ! 055.ドーラ :なんだって? 056.パズー :父さんは竜の巣の中でラピュタを見たんだ! 057.ドーラ :馬鹿な!入った途端にバラバラにされちまうよ! 058.シータ :パズー!あそこ! 059.ドーラ :この糞忙しい時に! 060.ナレ(N) :後ろからゴリアテが迫って来ていた。ゴリアテの砲台がタイガーモス号に直撃する。 061.パズー :行こう、おばさん!父さんが行った道だ!父さんは帰って来たよ! 062.ドーラ :よぉし!行こう、竜の巣へ! 063.ナレ(N) :その瞬間、パズーとシータを乗せた凧が切り離し、タイガーモス号は火を噴きながら雲の中へと消えて行った。 064.モウロ将軍 :むむっ。おおおお!やったぞぉ! 065.兵士  :本艦も危険です、退避します。 066.ムスカ :このまま進め。光は常に雲の渦の中心を指している。 ラピュタは嵐の中にいる。聞こえないのか。このまま進むんだ。必ず入口はある。 067.ナレ(N) :凧は気を失った二人を乗せ、花畑へ降りた。意識を取り戻したパズーはシータの姿を探した。 シータは花に体を埋め穏やかな寝顔で横たわっている。 068.パズー :シータ…、シータ。大丈夫? 069.ナレ(N) :パズーはそっとシータの肩を揺すった。シータは静かに目を開き、ゆっくりとパズーを見た。 070.パズー :見て…。 071.シータ :ラピュタ…。 072.パズー :うん。 073.ナレ(N) :勢いよく立ちあがったパズーだったが、シータとまだ紐で結んでいたため、その場に押しつけられた。 074.パズー :あ、ごめん。 075.シータ :あ、待って。うんときつく結んじゃったの。…ん。…うん。手が震えて…。…うわっ! 076.ナレ(N) :解こうとするシータを抱きかかえ、パズーは花畑の先へ向かった。 塔と外城壁の間から、遥か下に真っ青な海が見えている。城が空に浮いている。 077.パズー :やったぁ!はっはっはっはっはっはっはっは。はっはっはっはっはっは。 078.シータ :(同時に)あはははははははははははははははは。 079.パズー :鳥がいる…。 080.シータ :みんなどうしたかしら。 081.パズー :ん? 082.ナレ(N) :タイガーモス号の姿はそこには無かった。ふと扉のきしみに似た音が迫ってきた。 083.パズー :シータの出迎えかな? 084.シータ :でもわたし、飛行石持ってないわ。 085.パズー :ナイフで切ろう。 086.ナレ(N) :ロボット兵が近寄り、二人は思わず身を固くしたが、ロボット兵がつかんだのは凧だった。 087.パズー :何をする! 088.シータ :待って!お願い、それを壊さないで。それが無いと帰れなくなるの。 089.ナレ(N) :ロボット兵は一瞬動きを止めると、凧を持ち上げ、少し離れた場所にそっと移動させた。 凧があった場所には鳥の巣があった。中には小さな卵が三つ固まって入っている。 090.シータ :ヒタキの巣だわ。 091.パズー :このために? 092.ナレ(N) :空からヒタキが二羽舞い降り、巣の中へもぐり込んでいった。 093.シータ :よかった、卵が割れなくて。 094.パズー :人を怖がらないね。 095.ナレ(N) :ロボット兵は目の光を点滅させると、塔の石段を降り始めた。 096.シータ :おいでって。 097.パズー :言葉が分かるの? 098.シータ :そんな気がするだけ。 099.ナレ(N) :ためらいもなくロボット兵の後ろに従うシータを、パズーは追った。 二人は今よりもはるかに進んだ技術によるものであろう内層に足を止めた。ロボット兵はもう見えなくなっていた。 100.パズー :立派な町だったんだ。科学もずっと進んでたのに、どうして…。 101.ナレ(N) :進むと、巨樹が佇んでいた、横にはロボット兵が傍らに立っている。 巨樹に吸い込まれるように近付いた二人は、石盤を見つけた。 102.パズー :お墓だね。彫っている字が読めるといいんだけど。 103.シータ :花が供えられてある。…あなたがしてくれてるの?…は!パズー! 104.パズー :さっきのロボットじゃない。…ずっと前に壊れたんだ。はっ…。 105.ナレ(N) :傍らに立つロボット兵は立ったまま朽ち果てていた。見渡すと何体ものロボット兵が同じように横たわっている。 106.パズー :きっと、園丁のロボットなんだ。人が居なくなってからも、ずっとここを守ってたんだね。 107.ナレ(N) :先ほどのロボット兵がゆっくりと近付いて来た。手に持った花をゆっくりとシータに差し出す。 108.シータ :あ…。お墓に供える花を摘んで来てくれたの?…ありがとう。 109.パズー :きみ、一人ぼっちなの?ここにはもう、他のロボットはいないのかい? 110.ナレ(N) :ロボット兵は応えなかった。いつの間に来たのであろう、ロボットの胸の辺りでリスに似た小さな動物が何匹も戯れはじめ、 尻尾や身体をロボットの顔にすりつけている。ロボット兵はそのまま身体をくるりと回すと草原の向こうに姿を消した。 111.パズー :ちっとも寂しくないみたいだね。友達もいるし、ヒタキの巣も見回ったりもしなきゃならないし。 112.ナレ(N) :シータは目に溢れた涙をぬぐい、優しくうなずいた。突然爆発音が草原を揺るがした。二人は爆発音の方へ走り出した。 113.パズー :こっちだ!…裏側は崩れてたんだ。 114.ナレ(N) :パズーとシータの目の先に無残にもボロボロになったタイガーモス号があった。 115.パズー :タイガーモス号がやられてる。 116.シータ :おばさまたち、大丈夫かしら。 117.パズー :シータ、あそこ! 118.シータ :あっ…みんな捕まってるわ! 119.ナレ(N) :タイガーモス号のブリッジの横に後ろ手に縛りあげられた海賊たちの姿があった。 120.パズー :海賊はすぐ縛り首だ。 121.シータ :助けなきゃ。 122.パズー :行こう。 123.ナレ(N) :ドーラ達の前ではモウロ将軍が高笑いしながら行ったり来たりしている。 124.兵士  :突入口が開きました。ご覧ください、中は宝の山です。 125.ナレ(N) :兵士が宝石がちりばめられている装身具らしきものを差し出した。 126.ルイ  :すげぇ…。 127.モウロ将軍 :ふほ…ほほほほ…、どうだ欲しいか?。お前等にはたっぷり縄を加えてやるわい。 本国にラピュタ発見の報告をしたか? 128.ムスカ :これからです。 129.モウロ将軍 :せいぜい難しい暗号を組むんだな。こらぁー猫ばばするなぁー! 130.ムスカ :バカ共にはちょうどいい目くらましだ。 131.ナレ(N) :ムスカは二人の部下を連れ、まるでこの城を知り尽くしているかのように、歩きだした。 このとき、パズーとシータはドーラ一家を助けるべく彼らの頭上の庭園へと来ていた。 132.シータ :凄い木の根…。 133.パズー :シータは、木登り平気だよね。…行けそうだ。 134.ナレ(N) :二人はぬめりのある木の根を慎重に足場を選びながら下って行った。 途中、小窓から居住区の様子がうかがえた。兵士たちが血走った目で金貨や宝石にむらがり辺りのモノを破壊している。 135.パズー :ひどい事するなぁ…。 136.シータ :あの人達が上の庭へ行ったら…。 137.パズー :シータ、飛行石を取り戻そう。ここを奴等から守るにはそれしかないよ。なぜ雲が晴れたのか気になってたんだ。 こんな風にならなければ、奴等は上陸できなかったはずなんだ。 138.シータ :わたしのおまじないのせい…。 139.パズー :ムスカの言った封印が解けたって、これなんだよ、きっと。 もうこの城は眠りから覚めてるんだ。嵐に乗って飛行石を持つ者を迎えに来たんだよ。 このままではムスカが王になってしまう。略奪よりもっとひどい事が始まるよ。 140.シータ :でも、飛行石を取り戻したって、わたしどうしたらよいか…。!…あの言葉…。 141.パズー :あの言葉…って。滅びの…まさか! 142.ナレ(N) :二人はタイガーモス号難破している下まで降りると、石段の側面に通気口のようなものが空いている柱を発見した。 143.パズー :下から回れる…。…先に飛ぶよ? 144.ナレ(N) :パズーは勢いよくジャンプし、柱にしがみつくとジリジリと通気口へ登って行った。 145.ムスカ :このあたりだ。 146.ナレ(N) :ムスカの声にはっとしてシータは柱の陰に身をひそめた。 147.シータ :神様…。 148.ムスカ :これだ…! 149.ナレ(N) :ムスカは胸のポケットからシータの飛行石を取り出し、壁に当てると、石組の壁が消え、白い通路が出現した。 150.黒眼鏡 :あの小僧だ! 151.ナレ(N) :穴に体を突っ込もうとしていたパズーの一蹴りが足元の石を崩したのだ。黒眼鏡は銃をパズーに向け、構えた。 すさかずシータが柱から飛び出し、黒眼鏡に体当たりした。間一髪、銃弾は逸れ、テラスに銃声が響いた。 152.ムスカ :撃つな!捕えよ!…これはこれは、王女様ではないか。 153.パズー :シータ!くっそぉ…。 154.兵士  :大佐!何事ですか! 155.ムスカ :海賊の残りだ。もう一匹その足元に隠れているぞ。 156.兵士  :はっ、探せー! 157.パズー :シータ、待ってろー! 158.シータ :パズー! 159.兵士  :手投げ弾を持ってこい! 160.ルイ  :パズー達かなぁ? 161.ナレ(N) :シータの声を残し、ムスカ達は通路に消えて行った。 手投げ弾を持った兵士がパズーが入りこんだ通気口へ投げ入れた。その爆発でドーラの尻の下の石が崩れ落ちた。 162.パズー :おばさん。シータが捕まったんだ。僕は助けに行く。縄を着るから逃げて。 163.ナレ(N) :穴から顔を出したパズーに驚いたドーラだが、素知らぬ顔で辺りを見渡した。 パズーは工具袋から小型ナイフを取り出すとドーラの縄を切りほどき、ナイフをドーラに手渡した。 164.パズー :うまく逃げてね。 165.ドーラ :これ、お待ち。…持って行きな。 166.ナレ(N) :ドーラは左足を穴に入れると、ランチャーと弾を二発取り出した。パズーは受け取ると元来た道へと戻って行った。 167.ドーラ :急に男になったねぇ…。 168.モウロ将軍 :なんだと!ムスカが無線機を全部ぶっ壊しただと!? 169.兵士  :はっ!艦内が手薄になった隙をつかれました。数名の兵が重傷です。 大佐は下部の黒い半球体の中です。兵が目撃しました。 170.モウロ将軍 :青二才め…本性を現しおったな。兵を集めろ!スパイ狩りだ! 171.兵士  :小隊を集まれー!抵抗する場合は射殺してかまわん!入り口を探せー! 172.ナレ(N) :ムスカが飛行石をかざすとどこからともなく黒い巨石が宙を飛び近寄ってきた。ムスカに促され、シータと部下はそれに乗った。 173.黒眼鏡 :大佐、ここは一体…。 174.ムスカ :ラピュタの中枢だ。上の城などガラクタに過ぎん。ラピュタの科学は全てここに結集しているのだ。 175.ナレ(N) :巨石が止まると、再びムスカが飛行石をかざした。目の前の壁が消え、ムスカとシータはそこに足を踏み入れた。 176.ムスカ :お前達はここで待て。 177.黒眼鏡 :あ!大佐、大佐! 178.ナレ(N) :黒眼鏡が取り乱したが、すぐに元の壁に戻り、侵入を許さなかった。 179.ムスカ :ここから先は王族しか入れない聖域なのだ。 180.ナレ(N) :ムスカとシータは木の根が這っている神殿へおりたった。 181.ムスカ :なんだこれは!木の根が…こんな所まで…!一段落したら焼き払ってやる。 …来たまえ、こっちだ。 182.ナレ(N) :ムスカは神殿の壁を丹念に探り始めた。 183.ムスカ :くっそー!…!あった!これだ! 184.ナレ(N) :ムスカは木の根を乱暴に引きちぎると、飛行石を壁にかざした。壁がふっと消えた。 その部屋の中央に人の大きさもある半透明の巨石が、青い光を放ちつつ、ゆっくりと回っている。 185.ムスカ :あった…!おお…!見たまえ、この巨大な飛行石を。これこそ、ラピュタの力の根源なのだ。 素晴らしい…700年もの間、王の帰りを待っていたのだ。 186.シータ :700年? 187.ムスカ :君の一族はそんな事も忘れてしまったのかね? …黒い石だ…伝説の通りだ…。…読める…読めるぞ! 188.シータ :あなたは一体誰? 189.ムスカ :わたしも古い秘密の名前を持っているんだよ、リュシータ。私の名は、ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。 君の一族とわたしの一族は元々一つの王家だったのだ。地上に降りた時二つに分かれたがね。 190.ナレ(N) :その頃、黒い半球体目掛けて兵士達は弾薬を放っていた。 191.兵士  :ヒビ一つ入ってねぇぞ…。ただの石じゃないな…。 192.モウロ将軍 :爆薬をありったけ仕掛けろ! 193.ムスカ :閣下、そんなことせずとも入れますよ。 194.モウロ将軍 :ムスカ!どこにいる! 195.ナレ(N) :返事が無く、ムスカの笑い声が響き渡り、テラスが十メートルほど下がり、止まった。 更にテラスのすぐ下に、半球体をぐるりと囲むように、先端のとがった巨大な石塔が海原に向かって突き出された。 196.ムスカ :さぁ、何を躊躇うのです。中へお進みください、閣下。 197.モウロ将軍 :えいっ!来い!閣下に続けぇー!続けー!な、なん、なんだ?なんだ?ここは?ムスカ!出て来い! 198.ムスカ :お静かに。 199.ナレ(N) :ざわめく兵士たちの上からムスカとシータの映像が出現した。 200.兵士  :おおっ…。 201.モウロ将軍 :な、なんの真似だ! 202.ムスカ :言葉を慎みたまえ。君はラピュタ王の前に居るのだ。 203.モウロ将軍 :きさま、正気か!? 204.ムスカ :これから王国の復活を祝って、諸君にラピュタの力を見せてやろうと思ってね。見せてあげよう、ラピュタのいかずちを! 205.兵士  :うわあああああああ! 206.ナレ(N) :半球体から飛び出た石塔に、青いプラズマがほどばしり、輪となって石塔を回り出した。 最後は白い光となり、一気に眼下の海面に向かって撃ち出された。 その光が放たれた海面から火の玉のように膨れ上がった熱風が天に向かって吹きつけた。 207.ムスカ :全世界は再びラピュタの前にひれ伏す事になるだろう。 208.モウロ将軍 :素晴らしいムスカ君。君は英雄だ。大変な功績だ! 209.ナレ(N) :将軍はムスカに向かって弾の許す限り銃を放ったが、ムスカは平気な顔をして立っている。 210.モウロ将軍 :あ、あれ…?あれ…? 211.ムスカ :君のアホ面には心底うんざりさせられる…。 212.シータ :みんな逃げてぇ! 213.ムスカ :死ねぇ! 214.モウロ将軍 :うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 215.兵士  :(同時に)うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 216.ムスカ :はっはっはっはっはっは…! 217.ナレ(N) :ムスカの笑い声と共に壁からぞろぞろとロボット兵が這いだしてきた。 218.ドーラ :あの化物だ! 219.ルイ  :いっぱいいるなぁ…。 220.ドーラ :みんな、逃げるよ! 221.ルイ  :は、はい…。 222.ドーラ :フラップターを調べな! 223.ルイ  :ママ!飛べるよ!早く逃げようよ! 224.ドーラ :静かに!声を立てるんじゃないよ…。何をぐずぐずしてるんだい、あの二人は…。追いてっちまうよ。 225.ムスカ :わたしをあまり怒らせない方がいいぞ。 226.ナレ(N) :ムスカは後ろ手に縛ったシータの胸倉をつかみ、床に押し倒した。 227.ムスカ :当分、二人きりでここに住むのだからな。 228.ナレ(N) :ムスカの前の空間に半透明のゴリアテの姿が浮かび上がった。ゴリアテが全砲門を開き、砲撃している映像である。 229.ムスカ :ははっ…!さっさと逃げればいいものを!はっはっはっはっは…わたしと戦うつもりか。 230.ナレ(N) :そのとき、立ち往生してたパズーに半球体へ入る道が開かれた。中からロボット兵が飛び立つのを確認し、パズーはその中を登って行った。 ムスカの前の映像には、ゴリアテの周りをロボットが飛び交い、爆発しながら落ちてゆくゴリアテが映っていた。 231.ムスカ :素晴らしいっ…!最高のショーだと思わんかね?ほう…!見ろ!人がゴミのようだ!はっはっはっはっはっはっは!…!何をする! 232.ナレ(N) :縄を力任せに引きちぎったシータはムスカに体当たりをし、飛行石を奪い取った。 ムスカはすかさず殴りつけた。しかしシータは素早く立ちあがると、壁に向かって走り出した。 233.ムスカ :くそう…。返したまえ、いい子だから…。 234.シータ :お願い、開いて! 235.ムスカ :はっはっはっはっ…どこへ行こうと言うのかね? 236.ナレ(N) :壁が消えると、シータは走り始めた。ムスカはゆっくりとシータを追ってゆく。 一方パズーは小さな穴に炸裂弾を放ち、体を滑り込ませながら内部へと進んでいた。 237.ムスカ :はっはっはっはっは…。 238.パズー :シーター! 239.シータ :パズー! 240.ナレ(N) :叫び合いながら二人が壁の裂け目に駆け寄ったのはほぼ同時だった。 241.パズー :シータ!くっそぅ…下がって! 242.シータ :これを!ムスカが…急いで!…海に捨てて…! 243.ナレ(N) :飛行石を受け取った時、シータの顔が裂け目から消え、ムスカの短銃が突き出された。 銃弾の衝撃に吹き飛ばされたかが、頭に掛けていたゴーグルがパズーの命を救った。 244.ムスカ :その石を大事に持っていろ!小娘の命と引き換えだ。 245.ナレ(N) :ムスカの足音が、シータを追って遠ざかった。パズーは最後の炸裂弾をランチャーに籠めると、裂け目に向けて発射した。 246.ムスカ :立て。鬼ごっこは終わりだ。終点が玉座の間とは上出来じゃないか。ここへ来い! 247.シータ :これが玉座ですって?ここはお墓よ。あなたとわたしの。国が滅びたのに王だけ生きているなんて滑稽だわ。 あなたに石は渡さない。あなたはここから出る事もできずに、わたしと死ぬの。 今は…ラピュタがなぜ滅びたか、わたしよく分かる…。ゴンドアの谷の歌にあるもの…。 『土に根を下ろし風と共に生きよう、種と共に冬を越え鳥と共に春を謳おう。』 どんな恐ろしい武器を持っても、たくさんのかわいそうなロボットを操っても、土から離れては生きられないのよ! 248.ナレ(N) :ムスカは返事の代わりに銃を発射した。シータのお下げがちぎれたが、シータは微動だにしなかった。 249.ムスカ :ラピュタは滅びぬ。何度でも蘇るさ。ラピュタの力こそ人類の夢だからだ。 次は耳だ。ひざまずけ、命乞いをしろ!小僧から石を取り戻せ! 250.パズー :待てぇぇ!石は隠した!シータを撃ってみろ、石は戻らないぞ! 251.ナレ(N) :パズー、来ちゃダメ。どうせこの人はわたし達を殺す気よ! 252.ムスカ :小僧、娘の命と引き換えだ!石の在りかを言え!それとも…その大砲でわたしと勝負するかね? 253.パズー :シータと二人っきりで話がしたい。 254.シータ :来ちゃダメ、石を捨てて逃げて…。 255.ムスカ :…三分間待ってやる。 256.シータ :…パズー…。 257.パズー :シータ…落ちついてよく聞くんだ。…あの言葉を教えて。僕も一緒に言う。僕の左手に手を乗せて。 258.ナレ(N) :パズーの左手には飛行石があった。シータはゆっくりと手を合わせた。 259.パズー :おばさん達の縄は…切ったよ。 260.ムスカ :時間だ、答えを聞こう。…ん? 261.ナレ(N) :パズーが無造作にランチャーを足元に投げ出し、二人は手を結びあったままムスカを射るように見つめている。 262.パズー :バルス! 263.シータ :(同時に)バルス! 264.ムスカ :あぁあぁああ…!! 265.ナレ(N) :二人の掌から、かつてないほどのすさまじいドロッとした黒い光が放たれ、結晶にもどった飛行石が白色の閃光となり飛び散った。 二人は玉座に絡まった木の根に吹き飛ばされた。 266.ムスカ :あぁあぁああ…目がぁぁあぁああ…目がぁぁあぁああ…あああぁあぁぁ…目がぁぁ…ああ…! 267.ナレ(N) :閃光にやられたかのかムスカは何も見えずにふらふらと歩いていた。 城が揺らぎ始め、もろい外城壁がズボッと抜け落ち、内城壁も半球体から伝わる振動で、バラバラと降り始めていた。 268.ルイ  :ママ、崩れるよ! 269.ドーラ :仕方ない、脱出、急ぎな! 270.ナレ(N) :傾きかけたタイガーモス号から四機のフラップターがはばたいた。 次第に崩壊の速度がゆるみ、収まっていった。重量が軽くなったせいだろうか、城を抱えたまま大樹が天空へ向け滑るように動き出した。 271.ルイ  :シータ…いい子だったのに…。 272.ドーラ :滅びの言葉を使ったんだ。あの子達はバカ共からラピュタを守ったんだよ。 273.ルイ  :うぅ…。ん?崩れが止まった?…!飛行石だ!とびっきりでっかいやつだよ!…登っていく…。 274.ドーラ :樹だぁ!あの樹がみんな持ってちまう!追うんだー! 275.ナレ(N) :しかし、繋がったフラップターは上手く飛ぶ事ができなかった。 276.ドーラ :おいいいいい!みんな降りな! 277.ルイ  :そんな無茶な…。 278.ナレ(N) :パズーとシータは夢見心地で目を覚ました。 279.パズー :シータ…。木の根が僕たちを守ってくれたんだ。…シータ、上に行こう。庭園は無事みたいだよ。 280.シータ :パズー…。 281.パズー :木の根が僕たちを守ってくれたんだ。 282.ナレ(N) :パズーは木の根に守られた凧を発見した。 283.パズー :ワイヤーを張れば大丈夫だ。…行くよ? 284.シータ :うん。 285.ナレ(N) :パズーはへりにぶら下がり、木の根を蹴って凧を押しだした。凧はふわっと舞い上がった。 286.シータ :あんなに高く昇って、生きていけるかしら。 287.パズー :うん、だいじょうぶだよ。何千年も空で生きてきた樹だもの。 288.ナレ(N) :西に向けて滑空する凧がドーラ一家に再会したのはもう夕暮れだった。 289.ルイ  :シータだ! 290.モトロ :小僧だ! 291.ドーラ :生きていたのかい! 292.シータ :おばさま! 293.ドーラ :よく生きていたねえ。 294.パズー :みんな無事だったんだ! 295.モトロ :無事なもんかい。わしの可愛いボロ船が…とほほほほ…。 296.ドーラ :めそめそするんじゃないよ。もっといい船作りゃいいんだ。かわいそうに、髪の毛を切られる方がよっぽど辛いよ…。 297.シータ :お、おばさま…苦しい。 298.ドーラ :おっとごめんよ。情けないじゃないか、散々苦労してこの程度さ。 299.ルイ  :にーひーひー! 300.ナレ(N) :ドーラ一家はそれぞれ片手に持てるほどの宝石を取り出した。皆の笑い声が空に響いていた。 -----------------------------------------------------------------------------------------------