世間一般で「『非日常的』とか『非現実的』な光景」と言われているような

状況には、もう慣れてはいるつもりだ。

大体、俺、白乃達矢だって、吸血鬼……それも日光がほぼ平気で

寿命も常人よりは僅かに長い程度という変わった吸血鬼になってから

もう三年の身の上だ。14歳の頃までは、非現実的だった筈の

存在になってしまって、それなりに経つのだ。

今更、どんなに非常識な光景を目の当たりにしても

何とも思わない……なんてこと、あるわけないじゃないか!!

人外の類になってしまっているといっても、俺だって感情を持つ等身大の

一生命体。初めて見るものに対しては、ある程度は驚いたり怖れたりもする。

__大体、今、俺の目の前で起こっている光景が光景だしな…………。

今、俺は、クラスメートであり部活仲間でもある鈴森観月と一緒に

例のビルから、それなりに離れた位置から、他の野次馬達と一緒に

そのビルを見上げているのだが…………!!

ここからでも、なんとか見える__ビルの壁を突き破って

その中から這い出てきて蠢く、刺の突いた太くて長い

暗緑色の巨大な物体……というか巨大な『蔦』__崩れ落ちる、ビルの壁の

一部だった大量の瓦礫__ここにまで響いてくる轟音。

はっ……今、ビルの屋上辺りが、二つに裂けて……裂け目から……何か

丸っこい物がゆっくりと、迫り上がってきた。

 

「あれは………蕾か?」

 

__つい、声に出してしまった……だけど、あの外見は確かに

花の蕾そのものだ……大きさが半端じゃなさすぎだけど。

小さめなビルと同じぐらいか、それ以上かくらいの大きさがあるぞ、あの蕾は。

その蕾はというと、花弁の根元が完全にビル外に現れたくらいで迫り上がるのが止まった……!?

__唐突に響き渡る轟音__左腕を掴まれる感触__?……反射的に

左隣を向くと、観月が自分の右手で俺の左腕を掴んで

顔を強張らせながら、ビル上の巨大花を眺めていた。

……えと、とりあえず左掌で観月のウエストの左側に触れて

観月の身体を自分の身体に寄せる。

観月の胴体の前側が僅かに俺の方に向きつつ、彼女の左掌が撫でるように

俺の左胸板に制服の上から置かれた。

……まあ、悪くないかな……あ……お互いに制服越しにだけど

俺の左脇の辺りに観月の右乳房が当たって、しかも少し潰れてる……

って、なんか嬉しいけど、今はソンナ場合じゃない!!……今は

気にしない、そう気にしない、と……

__えーと、さっきの轟音は確か、巨大花の蕾が

開きかかった音だったな……改めて、ビル上の巨大花へと視線を向ける。

__ゆっくりと……いや、あれは決して『ゆっくり』などでは

ないな………植物の花弁というものは、数時間という、見飽きてしまうほど

長い時間をかけて やっと開花しきるものだ。なのに、あの巨大花は

花弁の一つ一つが、まるで動物のように蠢きながら、ものの十秒強で

開花し終えた。食虫植物は虫を捕らえる際、捕食器部分が

かなり速く動くそうだけど、あの巨大花の外見は食虫植物のそれじゃない。

平たく広がった花弁の中央に、まるで塔のような花柱を持つ

比較的オーソドックスな花だ。

それがあんなに早く開き終えるなんて………いや、ビルを裂いて

迫り上がっていった時も、よく考えると、植物が伸びる速度としては

速すぎだったし、第一、根や蔦が蠢いて、それが人間に巻き付いて

刺から血液を吸い上げたりするような植物だ。

異様な開花速度など然したる物でもないのかもしれない。

なんにせよ、この第弐大出島市が造られ始める頃などよりも……気が

遠くなるほど遙かなる昔から、この地の底に種を沈め……

そして、つい最近になって生を受けたのであろう、有史以前の

巨大なる怪植物……勾陣学園大学部の教授が言っていた

『マンモスフラワー』が、俺と観月を含めた大多数の視線に晒されながら

現代の……この青空の下(もと)に禍々しく咲き誇った……。